
秋の田のかりほの庵の苫をあらみわが衣手は露にぬれつつ
あきのたの かりほのいほの とまをあらみ/わがころもでは つゆにぬれつつ
意味
秋の田んぼのそばにある仮の小屋は、屋根の苫の編み目があらいので、見張りをしている私の袖は、夜つゆにぬれていくばかりだ。
ポイント「かりほ」は「仮庵」のこと。稲の番をする人の苦労を思いやった歌として伝えられている。
ABOUT
100人の歌人の和歌を、1人1首ずつ集めたものです。鎌倉時代の前半に、藤原定家が京都の小倉山の山荘で選んだと伝えられ、「小倉百人一首」とよばれます。
1番の天智天皇から100番の順徳院まで、おおよそ時代の順にならんでいます。歌はすべて、天皇の命令でつくられた和歌集(勅撰集)から選ばれています。
学校では小学校3・4年生で「文語調の短歌を音読・暗唱する」学習が、中学校で古典の入門があり、百人一首はその練習にちょうどよい歌の集まりです。
どんな歌が多い?
恋の歌がおよそ半分。季節の歌では秋がいちばん多い。
和歌のかたち ― 5・7・5・7・7 の31音
はるすぎて
5
なつきにけらし
7
しろたへの
5
ころもほすてふ
7
あまのかぐやま
7
上の句(読まれる)
下の句(取り札)
例は2番「春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山」。かるたでは読み手が上の句から読み、取る人は下の句だけが書かれた札をさがします。
KIMARIJI
上の句を頭から聞いていき、どの歌か1つに決まる字が「決まり字」です。
決まり字を覚えれば、上の句を最後まで聞かなくても取れます。読み上げたときの音で決まるので、44番「あふことの」は「おうことの」として数えます。
何字で決まる?
最初の1字だけで取れる7首。頭の字をつなげて「むすめふさほせ」と覚えます。
出だしの5字が同じ歌が3組あります。6字目(色のついた字)で聞き分けます。
2字決まり(42首)
3字決まり(37首)
HOW TO
1字決まりから
「むすめふさほせ」の7首は頭の1字で取れる。まずはここから。
決まり字と下の句をセットで
上の句を全部覚えなくてもよい。「む→きりたちのぼる」のように結びつける。
20首ずつ区切る
1〜20番、21〜40番…と区切って、覚えたら次へ。練習も範囲を選べる。
声に出して読む
5・7・5・7・7のリズムで読むと頭に残る。意味がわかると忘れにくい。
似た出だしをくらべる
「あさぼらけ」「きみがため」「わたのはら」は2首ずつ。ちがう字に注目する。
覚えたら試そう
上の句や決まり字から下の句を当てる4択クイズ。
練習するALL 100
読みは歴史的仮名遣い。色のついた部分が決まり字です。

秋の田のかりほの庵の苫をあらみわが衣手は露にぬれつつ
あきのたの かりほのいほの とまをあらみ/わがころもでは つゆにぬれつつ
意味
秋の田んぼのそばにある仮の小屋は、屋根の苫の編み目があらいので、見張りをしている私の袖は、夜つゆにぬれていくばかりだ。
ポイント「かりほ」は「仮庵」のこと。稲の番をする人の苦労を思いやった歌として伝えられている。

春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山
はるすぎて なつきにけらし しろたへの/ころもほすてふ あまのかぐやま
意味
春が過ぎて、夏が来たらしい。夏になると白い衣をほすという天の香具山に、真っ白な衣がほしてあるよ。
ポイント「てふ」は「という」の意味で、「ちょう」と読む。天の香具山は奈良県にある山。作者は1番の天智天皇の娘。

あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む
あしびきの やまどりのをの しだりをの/ながながしよを ひとりかもねむ
意味
山鳥の長くたれ下がった尾のように長い長い夜を、私はひとりさびしく寝るのだろうか。
ポイント「あしびきの」は「山」を引き出す枕詞。上の句全体が「ながながし」を引き出す序詞になっている。

田子の浦にうち出でて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ
たごのうらに うちいでてみれば しろたへの/ふじのたかねに ゆきはふりつつ
意味
田子の浦の海辺に出てながめると、真っ白な富士山の高い峰に、雪が降りつづいているよ。
ポイント田子の浦は今の静岡県の海岸。『万葉集』にある元の歌は、結びが「雪は降りける」になっている。

奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき
おくやまに もみぢふみわけ なくしかの/こゑきくときぞ あきはかなしき
意味
山の奥で、散った紅葉をふみ分けながら鳴いている鹿の声を聞くときこそ、秋はとりわけ悲しく感じられる。
ポイント鹿は秋に、妻をよんで鳴くとされた。秋のさびしさを表す代表的な景物。

かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける
かささぎの わたせるはしに おくしもの/しろきをみれば よぞふけにける
意味
かささぎが翼を広げてかけたという橋(宮中の階段)に、霜が白くおりているのを見ると、夜もすっかりふけたのだなあ。
ポイント七夕の夜に、かささぎが天の川に橋をかけるという中国の伝説をふまえている。作者は大伴家持。

天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも
あまのはら ふりさけみれば かすがなる/みかさのやまに いでしつきかも
意味
大空をはるかに見上げると、月が出ている。あれは、ふるさとの春日にある三笠山に出ていたのと同じ月なのだなあ。
ポイント遣唐使として唐にわたった作者が、ふるさとの奈良をなつかしんでよんだと伝えられる。

わが庵は都のたつみしかぞ住む世をうぢ山と人はいふなり
わがいほは みやこのたつみ しかぞすむ/よをうぢやまと ひとはいふなり
意味
私の小屋は都の東南にあり、このように心静かに住んでいる。それなのに世間の人は、私が世の中をつらく思って宇治山にこもっていると言っているそうだ。
ポイント「うぢ」は地名の「宇治」と「憂し(つらい)」の掛詞。「たつみ」は東南の方角。

花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに
はなのいろは うつりにけりな いたづらに/わがみよにふる ながめせしまに
意味
桜の花の色は、長雨が降っているあいだに、すっかりあせてしまった。私の美しさも、もの思いにふけってむなしく過ごすうちに、おとろえてしまったなあ。
ポイント「ふる」は「降る」と「経る(時がたつ)」、「ながめ」は「長雨」と「眺め(もの思い)」の掛詞。

これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関
これやこの ゆくもかへるも わかれては/しるもしらぬも あふさかのせき
意味
これがあの、都から出て行く人も帰ってくる人も、知り合いも知らない人も、ここで別れてはまた出会うという逢坂の関なのだなあ。
ポイント逢坂の関は、今の滋賀県と京都府の境にあった関所。名前の「逢」に「人と逢う」意味がかけられている。

わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと人には告げよあまの釣舟
わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと/ひとにはつげよ あまのつりぶね
意味
大海原のたくさんの島々をめざして、私は舟をこぎ出して行ったと、都にいる人たちに伝えておくれ、漁師の釣り舟よ。
ポイント作者の小野篁は、罪をとがめられて隠岐(今の島根県の島)に流された。そのときの舟出の歌。

天つ風雲の通ひ路吹きとぢよをとめの姿しばしとどめむ
あまつかぜ くものかよひぢ ふきとぢよ/をとめのすがた しばしとどめむ
意味
空を吹く風よ、雲の中にある天への通り道をふさいでおくれ。天女のように美しい少女たちの姿を、もうしばらくここにとどめておきたいから。
ポイント宮中の行事(五節の舞)で舞う少女たちを、天女にたとえている。

筑波嶺の峰より落つるみなの川恋ぞつもりて淵となりぬる
つくばねの みねよりおつる みなのがは/こひぞつもりて ふちとなりぬる
意味
筑波山の峰から流れ落ちるみなの川が、しだいに水を集めて深い淵になるように、私の恋心もつもりつもって、深いものになってしまった。
ポイント筑波山は今の茨城県の山。上の句が、下の句の恋心のたとえになっている。

陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにしわれならなくに
みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに/みだれそめにし われならなくに
意味
陸奥の「しのぶもじずり」の布の模様のように、私の心は乱れはじめてしまった。いったい誰のせいだろう。私のせいではないのに(あなたのせいだ)。
ポイント「しのぶもぢずり」は、今の福島県の信夫地方でつくられた、乱れた模様のすり染めの布。

君がため春の野に出でて若菜摘むわが衣手に雪は降りつつ
きみがため はるののにいでて わかなつむ/わがころもでに ゆきはふりつつ
意味
あなたにさしあげるために、春の野原に出て若菜をつんでいる私の袖に、雪がしきりに降りかかっている。
ポイント若菜は、春の七草のような食べられる草。食べると元気に長生きできると考えられ、贈り物にした。

立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む
たちわかれ いなばのやまの みねにおふる/まつとしきかば いまかへりこむ
意味
あなたと別れて因幡の国へ行くが、その稲羽山の峰に生えている松のように、あなたが私を待っていると聞いたら、すぐにでも帰ってこよう。
ポイント「いなば」は国名の「因幡(今の鳥取県)」と「往なば(行ったならば)」、「まつ」は「松」と「待つ」の掛詞。

ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは
ちはやぶる かみよもきかず たつたがは/からくれなゐに みづくくるとは
意味
ふしぎなことが多かった神々の時代にも聞いたことがない。竜田川が、水を真っ赤な紅葉でしぼり染めにしているなんて。
ポイント「ちはやぶる」は「神」を引き出す枕詞。竜田川は奈良県の紅葉の名所。屏風にかかれた絵を見てよんだ歌。

住の江の岸に寄る波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ
すみのえの きしによるなみ よるさへや/ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ
意味
住の江の岸に寄る波の「よる」ではないが、夜の夢の中の通り道でさえ、あなたはどうして人目をさけて会いに来てくれないのだろう。
ポイント住の江は今の大阪市住吉のあたり。「寄る」と「夜」の同じ音を重ねている。一字決まり「す」。

難波潟短き蘆のふしの間も逢はでこの世を過ぐしてよとや
なにはがた みじかきあしの ふしのまも/あはでこのよを すぐしてよとや
意味
難波の入り江に生えている蘆の、短い節と節のあいだほどのわずかな時間さえ会わずに、この一生を過ごせと、あなたは言うのですか。
ポイント蘆の「ふし(節)」のように短い時間、という意味。難波潟は今の大阪湾の入り江。

わびぬれば今はた同じ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思ふ
わびぬれば いまはたおなじ なにはなる/みをつくしても あはむとぞおもふ
意味
恋に苦しんでいる今は、もうどうなっても同じことだ。難波の海にある「みおつくし」のように、この身をほろぼしても、あなたに会いたいと思う。
ポイント「みをつくし」は、船の通り道を示す杭の「澪標」と「身を尽くし(命をかける)」の掛詞。

今来むと言ひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな
いまこむと いひしばかりに ながつきの/ありあけのつきを まちいでつるかな
意味
「すぐに行きます」とあなたが言ったばかりに、秋の長い夜を待ちつづけて、とうとう明け方の月が出るまで待ってしまったよ。
ポイント長月は昔のこよみの九月。有明の月は、夜明けの空に残っている月。女性の立場になってよんだ歌。

吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ
ふくからに あきのくさきの しをるれば/むべやまかぜを あらしといふらむ
意味
吹くとすぐに秋の草や木がしおれてしまうので、なるほど、山から吹く風を「嵐(荒らし)」と言うのだろう。
ポイント「山」と「風」を組み合わせると「嵐」という漢字になる、という言葉遊びの歌。一字決まり「ふ」。

月見ればちぢにものこそ悲しけれわが身ひとつの秋にはあらねど
つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ/わがみひとつの あきにはあらねど
意味
月を見ると、あれこれと限りなくもの悲しくなる。秋は、私ひとりのためにやって来たわけではないのだけれど。
ポイント「ちぢ(千々)」と「ひとつ」を対にしている。

このたびは幣も取りあへず手向山紅葉の錦神のまにまに
このたびは ぬさもとりあへず たむけやま/もみぢのにしき かみのまにまに
意味
今度の旅は急なことで、神にささげる幣も用意できなかった。この手向山の、錦のような紅葉を幣として、神の御心のままにお受け取りください。
ポイント「このたび」は「この度(今回)」と「この旅」の掛詞。作者は、学問の神様として知られる菅原道真。

名にし負はば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな
なにしおはば あふさかやまの さねかづら/ひとにしられで くるよしもがな
意味
「逢う」「さ寝(いっしょに寝る)」という名前を持っているのなら、逢坂山のさねかずらよ、そのつるをたぐるように、人に知られずにあなたのもとへ来る方法があればいいのに。
ポイント「くる」は「繰る(たぐりよせる)」と「来る」の掛詞。

小倉山峰のもみぢ葉心あらば今ひとたびのみゆき待たなむ
をぐらやま みねのもみぢば こころあらば/いまひとたびの みゆきまたなむ
意味
小倉山の峰の紅葉よ、もしおまえに心があるなら、もう一度天皇がおいでになるまで、散らずに待っていてほしい。
ポイント小倉山は京都の嵯峨にある山。百人一首は、藤原定家がこの山のふもとの山荘で選んだと伝えられている。

みかの原わきて流るる泉川いつ見きとてか恋しかるらむ
みかのはら わきてながるる いづみがは/いつみきとてか こひしかるらむ
意味
みかの原を分けて流れる泉川の「いつみ」ではないが、いつ見たというので、こんなにあの人が恋しいのだろう(まだ一度も会ったことはないのに)。
ポイント上の句が、「いづみ(泉)」の音から「いつ見」を引き出す序詞になっている。

山里は冬ぞさびしさまさりける人目も草もかれぬと思へば
やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける/ひとめもくさも かれぬとおもへば
意味
山里は、冬こそさびしさがいっそう増すものだ。たずねてくる人もいなくなり、草も枯れてしまうと思うと。
ポイント「かれ」は、人の訪れが「離れ(かれ)」と、草が「枯れ」の掛詞。

心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花
こころあてに をらばやをらむ はつしもの/おきまどはせる しらぎくのはな
意味
あて推量で折るなら折ってみようか。初霜が一面におりて、霜なのか花なのか見分けがつかなくなっている白菊の花を。
ポイント白い霜と白い菊が区別できないほどの景色を、少し大げさにえがいている。

有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし
ありあけの つれなくみえし わかれより/あかつきばかり うきものはなし
意味
有明の月がそっけなく見えた、あの冷たい別れのとき以来、夜明け前ほどつらいものはない。
ポイント「暁」は、夜明け前のまだ暗いころ。恋人と別れる時間とされた。

朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪
あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに/よしののさとに ふれるしらゆき
意味
夜がほのぼのと明けるころ、有明の月の光かと思うほどに、吉野の里に白く降りつもっている雪よ。
ポイント吉野は奈良県の山里。雪の白さを月の光にたとえている。決まり字は6字の「あさぼらけあ」。

山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり
やまがはに かぜのかけたる しがらみは/ながれもあへぬ もみぢなりけり
意味
山の中の川に、風がかけたしがらみ(水をせきとめる柵)とは、流れきれずにたまっている紅葉だったのだなあ。
ポイント風を人のようにえがき、紅葉がたまっている様子を「しがらみ」にたとえている。

ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
ひさかたの ひかりのどけき はるのひに/しづごころなく はなのちるらむ
意味
日の光がのどかにさしている春の日に、どうして桜の花だけは、落ち着いた心もなく散っていくのだろう。
ポイント「ひさかたの」は「光」「天」などを引き出す枕詞。作者は35番の紀貫之のいとこ。

誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに
たれをかも しるひとにせむ たかさごの/まつもむかしの ともならなくに
意味
年をとった私は、いったい誰を心の知れた友にしたらよいのだろう。長生きの高砂の松も、昔からの友だちではないのに。
ポイント高砂は今の兵庫県の地名で、松の名所。友がみな亡くなってしまった老人のさびしさをよんでいる。

人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける
ひとはいさ こころもしらず ふるさとは/はなぞむかしの かににほひける
意味
あなたの心はさあ、どうだかわからない。けれど、昔なじみのこの土地では、梅の花だけが昔と同じ香りでにおっているよ。
ポイントこの「花」は梅。作者は『古今和歌集』を選んだ一人で、『土佐日記』の作者。

夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ
なつのよは まだよひながら あけぬるを/くものいづこに つきやどるらむ
意味
夏の夜は短く、まだ宵のうちだと思っているうちに明けてしまった。月は西の山にしずむひまもなく、雲のどこに宿をとっているのだろう。
ポイント夏の夜の短さを、月の身になって大げさに表している。作者は清少納言のひいおじいさん。

白露に風の吹きしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける
しらつゆに かぜのふきしく あきののは/つらぬきとめぬ たまぞちりける
意味
草の葉の白露に風がしきりに吹きつける秋の野原は、糸に通していない真珠の玉が、ばらばらと散りみだれているようだ。
ポイント露を玉(真珠)にたとえている。作者は22番の文屋康秀の子。

忘らるる身をば思はず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな
わすらるる みをばおもはず ちかひてし/ひとのいのちの をしくもあるかな
意味
あなたに忘れられる私のことは何とも思わない。ただ、いつまでも愛すると神に誓ったあなたの命が、誓いを破った罰で失われるのではないかと、惜しまれてならない。
ポイント相手を責めるような、心配するような、複雑な気持ちが読み取れる。

浅茅生の小野の篠原しのぶれどあまりてなどか人の恋しき
あさぢふの をののしのはら しのぶれど/あまりてなどか ひとのこひしき
意味
浅茅の生えている野原の篠原の「しの」ではないが、じっとこらえて忍んでいるのに、どうしておさえきれないほど、あの人が恋しいのだろう。
ポイント上の句が、同じ音の「しのぶれど」を引き出す序詞になっている。

忍ぶれど色に出でにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで
しのぶれど いろにいでにけり わがこひは/ものやおもふと ひとのとふまで
意味
人に知られないようにかくしていたのに、顔色に出てしまったようだ、私の恋は。「もの思いをしているのですか」と人にたずねられるほどに。
ポイント宮中の歌合で、41番の壬生忠見の歌と勝負して勝ったと伝えられる。

恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか
こひすてふ わがなはまだき たちにけり/ひとしれずこそ おもひそめしか
意味
恋をしているといううわさが、もう立ってしまった。だれにも知られないように、ひそかに思いはじめたばかりなのに。
ポイント「てふ」は「という」の意味。40番と同じ歌合でよまれた歌。作者は30番の壬生忠岑の子。

契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山波越さじとは
ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ/すゑのまつやま なみこさじとは
意味
約束しましたよね。おたがいに涙でぬれた袖をしぼりながら、末の松山を波が越すことがないように、二人の心も決して変わらないと。
ポイント末の松山(今の宮城県)は、波が越えることのない場所とされた。作者は清少納言の父。

逢ひ見ての後の心にくらぶれば昔はものを思はざりけり
あひみての のちのこころに くらぶれば/むかしはものを おもはざりけり
意味
あなたと結ばれてからの、今のせつない心にくらべると、会う前のもの思いなど、何も思っていなかったのと同じようなものだった。
ポイント会ったあとのほうが、かえって思いが深まるという恋の心をよんでいる。

逢ふことの絶えてしなくばなかなかに人をも身をも恨みざらまし
あふことの たえてしなくば なかなかに/ひとをもみをも うらみざらまし
意味
もし会うことがまったくなかったなら、かえって、あの人の冷たさも、自分のつらい身の上も、うらんだりしなかっただろうに。
ポイント「まし」は「もし〜ならば…だろうに」という意味。決まり字は「あふこ」で、読むときは「おうこ」と発音する。

あはれともいふべき人は思ほえで身のいたづらになりぬべきかな
あはれとも いふべきひとは おもほえで/みのいたづらに なりぬべきかな
意味
私をかわいそうだと言ってくれそうな人は思いうかばず、私はこのまま恋にこがれて、むなしく死んでしまうにちがいない。
ポイント冷たくなった恋人に向けて、あわれみを求めた歌。

由良の門を渡る舟人かぢを絶え行方も知らぬ恋の道かな
ゆらのとを わたるふなびと かぢをたえ/ゆくへもしらぬ こひのみちかな
意味
由良の海峡をわたる船頭が、かいをなくして、行き先もわからずただようように、これから先どうなるかわからない私の恋の道よ。
ポイント上の句が「行方も知らぬ」を引き出す序詞になっている。

八重むぐらしげれる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり
やへむぐら しげれるやどの さびしきに/ひとこそみえね あきはきにけり
意味
つる草が何重にもしげっているさびしい家には、たずねてくる人はいないが、秋だけはやって来たのだなあ。
ポイント荒れはてた家に、季節だけが変わらずめぐってくるさびしさをよんでいる。

風をいたみ岩打つ波のおのれのみくだけてものを思ふころかな
かぜをいたみ いはうつなみの おのれのみ/くだけてものを おもふころかな
意味
風がはげしいので、岩にうちつける波が自分だけくだけ散るように、あの人は平気なのに、私だけが心もくだけるほど思いなやむこのごろだ。
ポイント「〜をいたみ」は「〜がはげしいので」という意味。

みかきもり衛士のたく火の夜は燃え昼は消えつつものをこそ思へ
みかきもり ゑじのたくひの よるはもえ/ひるはきえつつ ものをこそおもへ
意味
宮中の門を守る兵士のたくかがり火が、夜は燃えて昼は消えているように、私の恋心も、夜は燃え上がり、昼は消え入るようになって、もの思いをしている。
ポイント作者は61番の伊勢大輔の祖父。

君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな
きみがため をしからざりし いのちさへ/ながくもがなと おもひけるかな
意味
あなたに会うためなら惜しくないと思っていた命でさえ、会うことができた今は、いつまでも長くつづいてほしいと思うようになったよ。
ポイント決まり字は6字の「きみがためを」。15番「きみがためは」と区別する。作者は45番の謙徳公の子。

かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを
かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ/さしもしらじな もゆるおもひを
意味
こんなにあなたを思っていると、口に出して言うことさえできない。伊吹山のさしも草が燃えるように燃えている私の思いを、あなたはそれほどとは知らないでしょうね。
ポイント「いぶき」は地名の「伊吹」と「言ふ」、「思ひ」の「ひ」は「火」の掛詞。さしも草は、お灸に使うもぐさ。

明けぬれば暮るるものとは知りながらなほ恨めしき朝ぼらけかな
あけぬれば くるるものとは しりながら/なほうらめしき あさぼらけかな
意味
夜が明ければ、また日が暮れて、あなたに会えるとわかってはいるけれど、それでもやはり、別れなければならない夜明けはうらめしいよ。
ポイント恋人と別れて帰った朝に送った歌。

嘆きつつひとり寝る夜の明くる間はいかに久しきものとかは知る
なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは/いかにひさしき ものとかはしる
意味
あなたが来ないのを嘆きながら、ひとりで寝る夜が明けるまでの時間がどんなに長いものか、あなたは知っているでしょうか(知らないでしょう)。
ポイント作者は『蜻蛉日記』の作者。夫の藤原兼家に向けてよんだ歌。

忘れじの行く末まではかたければ今日を限りの命ともがな
わすれじの ゆくすゑまでは かたければ/けふをかぎりの いのちともがな
意味
「いつまでも忘れない」というあなたの言葉が、遠い先まで変わらないとは信じにくいので、幸せな今日を最後に、命が終わってしまえばいいのに。
ポイント幸せの絶頂にいるときの、先を思う不安をよんでいる。

滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ
たきのおとは たえてひさしく なりぬれど/なこそながれて なほきこえけれ
意味
滝の水音が聞こえなくなってから長い年月がたったが、その評判だけは世間に伝わって、今も聞こえてくる。
ポイント京都の大覚寺にあった滝のあとをよんだ歌。「な」の音のくり返しがリズムを生んでいる。

あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな
あらざらむ このよのほかの おもひでに/いまひとたびの あふこともがな
意味
私はもうすぐ死んでしまうだろう。あの世への思い出に、もう一度だけあなたに会いたい。
ポイント重い病気になったときによんだ歌。作者は60番の小式部内侍の母。

めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に雲隠れにし夜半の月かな
めぐりあひて みしやそれとも わかぬまに/くもがくれにし よはのつきかな
意味
久しぶりにめぐり会ったのに、あなたかどうかもはっきりわからないうちに帰ってしまった。まるで雲にかくれた夜中の月のように。
ポイント作者は『源氏物語』の作者。幼なじみとの短い再会をよんだ歌。一字決まり「め」。

有馬山猪名の笹原風吹けばいでそよ人を忘れやはする
ありまやま ゐなのささはら かぜふけば/いでそよひとを わすれやはする
意味
有馬山の近くの猪名の笹原に風が吹くと、笹の葉がそよそよと鳴る。そうですよ、私があなたを忘れたりするものですか。
ポイント「そよ」は、笹が鳴る音と「そうですよ」の掛詞。作者は紫式部の娘。

やすらはで寝なましものを小夜更けてかたぶくまでの月を見しかな
やすらはで ねなましものを さよふけて/かたぶくまでの つきをみしかな
意味
あなたが来ないとわかっていたら、ためらわずに寝てしまったのに。あなたを待って夜がふけ、西の空にかたむくまで月を見てしまったよ。
ポイント約束を破った男性に、姉妹にかわって作者がよんだ歌。

大江山いく野の道の遠ければまだふみも見ず天の橋立
おほえやま いくののみちの とほければ/まだふみもみず あまのはしだて
意味
大江山をこえ、生野を通っていく道は遠いので、まだ天の橋立の地をふんだこともないし、母からの手紙も見ていません。
ポイント母の和泉式部に歌を代わりに作ってもらうのだろう、とからかわれて、その場でよんだと伝えられる。「ふみ」は「踏み」と「文(手紙)」の掛詞。

いにしへの奈良の都の八重桜今日九重ににほひぬるかな
いにしへの ならのみやこの やへざくら/けふここのへに にほひぬるかな
意味
昔、都だった奈良の八重桜が、今日はこの宮中で、ひときわ美しく咲きほこっている。
ポイント「九重」は宮中のこと。「八重」と「九重」、「いにしへ」と「今日」を対にしている。

夜をこめて鳥のそら音ははかるともよに逢坂の関は許さじ
よをこめて とりのそらねは はかるとも/よにあふさかの せきはゆるさじ
意味
まだ夜が明けないうちに、にわとりの鳴きまねをしてだまそうとしても、この逢坂の関は決して通しませんよ(あなたには会いません)。
ポイントにわとりの鳴きまねで関所の門を開けさせたという中国の話をふまえている。作者は『枕草子』の作者。

今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言ふよしもがな
いまはただ おもひたえなむ とばかりを/ひとづてならで いふよしもがな
意味
今となっては、「あなたのことはあきらめます」という一言だけでも、人づてではなく、直接あなたに言う方法があればいいのに。
ポイント会うことを禁じられた恋の苦しさをよんでいる。

朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木
あさぼらけ うぢのかはぎり たえだえに/あらはれわたる せぜのあじろぎ
意味
夜がほのぼのと明けるころ、宇治川の川霧がとぎれとぎれに晴れていき、その間から、浅瀬に立つ網代木がつぎつぎに見えてくる。
ポイント網代木は、魚をとる仕掛けを支える杭。決まり字は6字の「あさぼらけう」。

恨みわびほさぬ袖だにあるものを恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ
うらみわび ほさぬそでだに あるものを/こひにくちなむ なこそをしけれ
意味
冷たい人をうらみ、涙でかわくひまもない袖さえ朽ちてしまいそうなのに、恋のうわさで私の評判まで落ちてしまうのが惜しい。
ポイント袖が朽ちることと、評判(名)が朽ちることを重ねている。

もろともにあはれと思へ山桜花よりほかに知る人もなし
もろともに あはれとおもへ やまざくら/はなよりほかに しるひともなし
意味
私がおまえをなつかしく思うように、おまえも私をなつかしいと思っておくれ、山桜よ。こんな山奥では、花のほかに私の心を知る者はいないのだから。
ポイント山奥で修行をしていた僧が、ひっそり咲く桜によびかけた歌。

春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ
はるのよの ゆめばかりなる たまくらに/かひなくたたむ なこそをしけれ
意味
春の夜の夢のように短い時間、あなたの腕を枕にしたとしても、それでつまらないうわさが立ってしまうのは惜しいことです。
ポイント「枕がほしい」とつぶやいた作者に、男性が腕をさし出したのを、軽くかわした歌。「かひなく」に「かひな(腕)」がかくれている。

心にもあらで憂き世にながらへば恋しかるべき夜半の月かな
こころにも あらでうきよに ながらへば/こひしかるべき よはのつきかな
意味
心ならずも、このつらい世の中に生きながらえたならば、きっと恋しく思い出されるにちがいない、今夜のこの月を。
ポイント目の病気のために、天皇の位をゆずろうとしていたころによんだ歌。

嵐吹く三室の山のもみぢ葉は竜田の川の錦なりけり
あらしふく みむろのやまの もみぢばは/たつたのかはの にしきなりけり
意味
強い風が吹く三室山の紅葉は、ふもとの竜田川に散って流れ、川をかざる錦の織物になっているよ。
ポイント三室山も竜田川も、奈良県の紅葉の名所。

さびしさに宿を立ち出でてながむればいづこも同じ秋の夕暮れ
さびしさに やどをたちいでて ながむれば/いづこもおなじ あきのゆふぐれ
意味
あまりのさびしさに家を出て、あたりをながめてみると、どこも同じようにさびしい秋の夕暮れだった。
ポイント一字決まり「さ」。

夕されば門田の稲葉おとづれて蘆のまろやに秋風ぞ吹く
ゆふされば かどたのいなば おとづれて/あしのまろやに あきかぜぞふく
意味
夕方になると、家の前の田んぼの稲の葉をそよそよと鳴らして、蘆でふいた粗末な小屋に、秋風が吹いてくる。
ポイント「おとづれて」は、音を立てて訪れてくるという意味。

音に聞く高師の浜のあだ波はかけじや袖のぬれもこそすれ
おとにきく たかしのはまの あだなみは/かけじやそでの ぬれもこそすれ
意味
うわさに高い高師の浜のむやみに立つ波はかぶらないようにしよう。袖がぬれてしまうといけないから(浮気者と評判のあなたの言葉は、心にかけません。あとで泣くことになるから)。
ポイント恋の歌を送ってきた男性への返事の歌。「高師」に「高し(評判が高い)」をかけている。

高砂の尾の上の桜咲きにけり外山の霞立たずもあらなむ
たかさごの をのへのさくら さきにけり/とやまのかすみ たたずもあらなむ
意味
遠くの高い山の峰に桜が咲いたなあ。手前の山の霞よ、どうか立たないでおくれ(桜が見えなくなるから)。
ポイントここでの「高砂」は、地名ではなく高い山という意味。

憂かりける人を初瀬の山おろしはげしかれとは祈らぬものを
うかりける ひとをはつせの やまおろし/はげしかれとは いのらぬものを
意味
私に冷たいあの人の心が変わるようにと、初瀬の観音様にお祈りしたのに。初瀬の山おろしの風よ、おまえのようにあの人がいっそうはげしく冷たくなれとは、祈らなかったのに。
ポイント初瀬は奈良県の長谷寺のあたり。山おろしは、山から吹きおろす強い風。

契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり
ちぎりおきし させもがつゆを いのちにて/あはれことしの あきもいぬめり
意味
お約束くださった、させも草の露のようなありがたいお言葉を命のようにたよりにしてきたのに、ああ、今年の秋もむなしく過ぎていくようだ。
ポイント息子をある法会の役につけてほしいとたのんだが、かなわなかった思いをよんでいる。

わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの雲居にまがふ沖つ白波
わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの/くもゐにまがふ おきつしらなみ
意味
大海原に舟をこぎ出してながめると、はるか沖のほうでは、空の雲と見分けがつかないほど白波が立っている。
ポイント決まり字は6字の「わたのはらこ」。11番「わたのはらや」と区別する。

瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ
せをはやみ いはにせかるる たきがはの/われてもすゑに あはむとぞおもふ
意味
川の流れが速いので、岩にせきとめられて二つに分かれた急流が、やがてまた一つになるように、今は別れても、いつかきっとあなたに会おうと思う。
ポイント一字決まり「せ」。落語「崇徳院」の題材にもなっている。

淡路島かよふ千鳥の鳴く声に幾夜寝覚めぬ須磨の関守
あはぢしま かよふちどりの なくこゑに/いくよねざめぬ すまのせきもり
意味
淡路島から通ってくる千鳥の鳴く声に、須磨の関所の番人は、いく晩目をさましたことだろう。
ポイント須磨は今の神戸市の海岸。冬の夜のさびしさをよんでいる。

秋風にたなびく雲の絶え間よりもれ出づる月の影のさやけさ
あきかぜに たなびくくもの たえまより/もれいづるつきの かげのさやけさ
意味
秋風に吹かれて長く横にたなびいている雲の切れ間から、もれ出てくる月の光の、なんと澄みきって明るいことよ。
ポイント「影」はここでは光のこと。

長からむ心も知らず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ
ながからむ こころもしらず くろかみの/みだれてけさは ものをこそおもへ
意味
いつまでも変わらないというあなたの心も信じきれず、別れた今朝は、私の黒髪が乱れているように、心も乱れて、もの思いにしずんでいる。
ポイント黒髪の乱れと、心の乱れを重ねている。

ほととぎす鳴きつる方をながむればただ有明の月ぞ残れる
ほととぎす なきつるかたを ながむれば/ただありあけの つきぞのこれる
意味
ほととぎすが鳴いた方をながめると、その姿はなく、ただ夜明けの空に月が残っているだけだった。
ポイントほととぎすは夏をつげる鳥。一字決まり「ほ」。

思ひわびさても命はあるものを憂きにたへぬは涙なりけり
おもひわび さてもいのちは あるものを/うきにたへぬは なみだなりけり
意味
冷たい人を思いなやんでも、それでも命はこうしてあるのに、つらさにたえきれずにこぼれ落ちるのは涙だったよ。
ポイント命と涙を対にしている。

世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる
よのなかよ みちこそなけれ おもひいる/やまのおくにも しかぞなくなる
意味
世の中というものは、つらさからのがれる道はないのだなあ。思いつめて入ったこの山の奥でも、鹿が悲しそうに鳴いている。
ポイント決まり字は5字の「よのなかよ」。作者は97番の藤原定家の父。

ながらへばまたこのごろやしのばれむ憂しと見し世ぞ今は恋しき
ながらへば またこのごろや しのばれむ/うしとみしよぞ いまはこひしき
意味
生きながらえたなら、つらいこのごろも、なつかしく思い出されるのだろうか。つらいと思っていた昔が、今では恋しいのだから。
ポイント作者は79番の左京大夫顕輔の子。

夜もすがらもの思ふころは明けやらで閨のひまさへつれなかりけり
よもすがら ものおもふころは あけやらで/ねやのひまさへ つれなかりけり
意味
一晩じゅう冷たい人を思いなやんでいるこのごろは、なかなか夜が明けず、寝室の戸のすきままでが、朝の光をさしこませてくれずに冷たく思える。
ポイント作者は74番の源俊頼の子。

嘆けとて月やはものを思はするかこち顔なるわが涙かな
なげけとて つきやはものを おもはする/かこちがほなる わがなみだかな
意味
嘆けといって、月が私にもの思いをさせるのだろうか。いや、そうではないのに、月のせいにするような顔でこぼれる私の涙よ。
ポイント作者は武士の身分をすてて、旅に生きた歌人。

村雨の露もまだひぬまきの葉に霧立ちのぼる秋の夕暮れ
むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに/きりたちのぼる あきのゆふぐれ
意味
にわか雨が通りすぎ、その露もまだかわいていない杉や檜の葉のあたりに、霧が白くわき上がってくる秋の夕暮れよ。
ポイント「まき」は杉や檜などの木。一字決まり「む」。

難波江の蘆のかりねのひとよゆゑみをつくしてや恋ひわたるべき
なにはえの あしのかりねの ひとよゆゑ/みをつくしてや こひわたるべき
意味
難波の入り江の蘆の刈り根の一節ほどの、たった一夜の旅の仮寝のために、この身をつくして、ずっとあなたを恋しつづけなければならないのだろうか。
ポイント「かりね」は「刈り根」と「仮寝」、「ひとよ」は「一節」と「一夜」、「みをつくし」は「澪標」と「身を尽くし」の掛詞。

玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする
たまのをよ たえなばたえね ながらへば/しのぶることの よはりもぞする
意味
私の命よ、絶えるなら、いっそ絶えてしまえ。このまま生きながらえていると、恋心をかくしておく力が弱って、人に知られてしまうかもしれないから。
ポイント「玉の緒」は命のこと。作者名は「しきしないしんのう」とも読む。

見せばやな雄島のあまの袖だにもぬれにぞぬれし色は変はらず
みせばやな をじまのあまの そでだにも/ぬれにぞぬれし いろはかはらず
意味
あなたに見せたいものだ。雄島の漁師の袖でさえ、ぬれにぬれても色は変わらないのに、私の袖は涙で色まで変わってしまったのを。
ポイント雄島は今の宮城県松島にある島。悲しみの涙で袖の色が変わるという表現をふまえている。

きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む
きりぎりす なくやしもよの さむしろに/ころもかたしき ひとりかもねむ
意味
こおろぎが鳴く、霜のおりる寒い夜に、むしろの上に自分の衣だけをしいて、私はひとりさびしく寝るのだろうか。
ポイント昔の「きりぎりす」は、今のこおろぎのこと。3番の柿本人麻呂の歌をふまえている。

わが袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らねかわく間もなし
わがそでは しほひにみえぬ おきのいしの/ひとこそしらね かわくまもなし
意味
私の袖は、潮が引いても見えない沖の石のように、人は知らないけれど、涙でかわくひまもない。
ポイント人知れない恋の涙を、海の底の石にたとえている。

世の中は常にもがもな渚漕ぐあまの小舟の綱手かなしも
よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ/あまのをぶねの つなでかなしも
意味
世の中は、いつまでも変わらないでほしいものだ。なぎさをこいでいく漁師の小舟が、綱で引かれていく様子は、しみじみと心にしみる。
ポイント決まり字は5字の「よのなかは」。作者は鎌倉幕府の三代将軍、源実朝。

み吉野の山の秋風小夜更けてふるさと寒く衣打つなり
みよしのの やまのあきかぜ さよふけて/ふるさとさむく ころもうつなり
意味
吉野の山から秋風が吹きおろし、夜もふけて、昔都があったこの里は寒々として、衣を打つ音が聞こえてくる。
ポイント衣を打つのは、布を木づちでたたいてやわらかくし、つやを出すため。

おほけなく憂き世の民におほふかなわが立つ杣に墨染の袖
おほけなく うきよのたみに おほふかな/わがたつそまに すみぞめのそで
意味
身のほど知らずだが、つらい世の中の人々を、僧としての墨染めの衣の袖でおおって守ってやりたい。比叡山に住みはじめた私は。
ポイント「わが立つ杣」は比叡山のこと。作者は歴史書『愚管抄』の作者。

花さそふ嵐の庭の雪ならでふりゆくものはわが身なりけり
はなさそふ あらしのにはの ゆきならで/ふりゆくものは わがみなりけり
意味
桜の花をさそって散らす嵐の庭に、雪のように降っていくのは花びらだが、本当に古りゆく(年をとっていく)ものは、私自身なのだなあ。
ポイント「ふりゆく」は「降りゆく」と「古りゆく」の掛詞。

来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ
こぬひとを まつほのうらの ゆふなぎに/やくやもしほの みもこがれつつ
意味
いくら待っても来ない人を待つ私は、松帆の浦の夕なぎのころに焼かれる藻塩のように、身もこがれるほど恋しく思っている。
ポイント作者は、百人一首を選んだとされる藤原定家。「まつほ」に「待つ」をかけている。

風そよぐならの小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける
かぜそよぐ ならのをがはの ゆふぐれは/みそぎぞなつの しるしなりける
意味
風が楢の葉をそよがせる、ならの小川の夕暮れは、もう秋のようにすずしいが、みそぎの行事が行われているのが、まだ夏であるしるしなのだなあ。
ポイント「ならの小川」は京都の上賀茂神社を流れる川。「なら」に木の「楢」をかけている。

人もをし人も恨めしあぢきなく世を思ふゆゑにもの思ふ身は
ひともをし ひともうらめし あぢきなく/よをおもふゆゑに ものおもふみは
意味
人をいとしく思うことも、うらめしく思うこともある。この世の中をつまらないものと思うために、もの思いをしてしまう私にとっては。
ポイント作者はのちに承久の乱をおこし、隠岐に流された。

ももしきや古き軒端のしのぶにもなほあまりある昔なりけり
ももしきや ふるきのきばの しのぶにも/なほあまりある むかしなりけり
意味
宮中の古くなった軒下に生えているしのぶ草を見るにつけても、いくらしのんでもしのびきれないのは、天皇の力がさかんだった昔のことだ。
ポイント「ももしき」は宮中のこと。作者は99番の後鳥羽院の子で、承久の乱のあと佐渡に流された。
歌の本文・読み・出典は、著作権の切れた古典の本文(Wikisource「小倉百人一首」)をもとに表記を今の字にそろえ、伝わる本によって字がちがう歌はかるたで一般的な形にしました。絵札は江戸時代の歌がるた(Wikimedia Commons・パブリックドメイン)です。現代語訳とポイントは Studia が書いたものです。 画像の出典一覧